まさか、自分の家が差し押さえられるなんて、夢にも思っていませんでした。あの赤い紙、差し押さえを告知する「差押調書」が玄関に貼られるまでは。私の家が「ゴミ屋敷」と呼ばれるようになったのは、いつからだったでしょうか。仕事のストレスで心を病み、何もやる気が起きなくなったのが始まりでした。最初は、脱いだ服をそのままにしたり、食べた後の食器をすぐに洗わなかったり、そんな些細なことでした。しかし、無気力な日々が続くなかで、部屋には徐々にモノが増え、ゴミが溜まっていきました。いつしか足の踏み場もなくなり、自分でもどこから手をつけていいのか分からない状態に。郵便受けに手紙が溜まっていても、見る気力すら湧きませんでした。その中に、市役所からの固定資産税の督促状が何通も含まれていたことなど、知る由もありませんでした。異変に気づいたのは、ある朝、玄関のドアを開けようとした時です。ドアに何か紙が貼られている。恐る恐る見てみると、そこには「差押調書」というおどろおどろしい文字が印刷されていました。頭が真っ白になり、心臓が凍りつくような感覚に襲われました。差し押さえ。その言葉の意味を理解した時、足元から崩れ落ちそうになりました。私が長年無視し続けた固定資産税の滞納が、ついに家そのものを奪う段階に来てしまったのです。慌てて市役所に電話をしましたが、担当者の声は事務的で、もはや手遅れであることを告げられました。近所の人の視線が、いつもより冷たく、好奇に満ちているように感じます。私が築き上げてきた、いや、私が壊してしまったこの家は、もう私の手から離れていく。ゴミに埋もれた部屋の中で、私はただ呆然と立ち尽くすことしかできませんでした。ゴミと一緒に、自分の人生まで捨ててしまっていたことに、すべてを失う寸前になって、ようやく気づいたのです。あの赤い紙は、私への最後の警告であり、社会からの断絶を告げる宣告書でした。