我々行政職員にとって、ゴミ屋敷問題への対応は非常にデリケートで、かつ精神的な負担の大きい業務の一つです。最終的に「差し押さえ」という手段に至るまでには、法律に基づいた長く、地道なプロセスが存在します。その実態は、単に事務的に手続きを進めるだけのものではありません。全ての始まりは、近隣住民からの通報や相談です。悪臭、害虫、火災の危険性など、切実な声が我々の元に寄せられます。これを受け、我々はまず現地調査を行い、状況を確認します。ここで「空家等対策の推進に関する特別措置法」に定められる「特定空家等」に該当すると判断された場合、法的な対応が開始されます。特定空家とは、放置すれば倒壊の危険がある、著しく衛生上有害となる恐れがあるなど、周辺の生活環境に深刻な影響を及ぼす状態の建物を指します。ゴミ屋敷は、まさにこの典型例です。特定空家に認定すると、我々は所有者に対して、まず「助言」や「指導」を行います。対話を試み、自主的な改善を促すのです。しかし、多くのケースで所有者との接触が困難であったり、改善に向けた協力が得られなかったりします。指導に従わない場合、次の段階としてより強い措置である「勧告」を出します。勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税額が最大で六倍に跳ね上がります。これは経済的なプレッシャーをかけることで、改善を促す目的があります。それでもなお改善されない場合、最終警告として「命令」を発出します。命令違反者には過料が科されることもあります。そして、命令に従わない場合に限り、行政が所有者に代わって強制的にゴミを撤去する「行政代執行」が可能となります。この代執行にかかった費用は、もちろん全額所有者に請求されます。もし所有者がこの費用を支払わなければ、それは税金の滞納と同じ扱いになります。つまり、地方税法に基づき、所有者の財産、最終的にはその不動産自体を差し押さえ、公売にかけて費用を回収する、という流れになるのです。差し押さえは、我々にとっても本意ではありません。それは、あらゆる対話の努力が尽きた後の、最後の手段なのです。